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横浜地方裁判所川崎支部 昭和51年(ヨ)109号 決定

申請人 田中五男

〈ほか二三名〉

右申請人ら代理人弁護士 岡田尚

同 三野研太郎

同 横山国男

同 木村和夫

同 伊藤幹郎

同 三浦守正

同 山内道生

同 星山輝男

同 林良二

同 舎川昭三

同 草島万三

被申請人東亜石油株式会社代表者代表取締役 岸田市平

主文

被申請人は申請人らに対しそれぞれ別紙債権目録請求債権欄記載の各金員および右各金員に対する昭和五一年七月六日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を仮に支払え。

申請費用は被申請人の負担とする。

理由

申請人らの申請の趣旨および理由は別紙仮払仮処分申請書および申請書補充書記載のとおりであるからここにこれを引用する。

申請人らは被申請人東亜石油株式会社(以下被申請人会社という。)には毎年七月全従業員に対し同一条件で夏季賞与を支給するという事実たる慣習ないし慣習法が成立しているところ、申請人らを除くその余の従業員には一時仮払金名下ですでに昭和五一年度夏季賞与が支給されており、従って申請人らは他の従業員と同一条件で夏季賞与の支給を受けるべき権利がある旨主張するので判断するに、≪証拠省略≫によれば、被申請人会社は現在従業員約九〇〇名を擁する株式会社であり、申請人らはいずれも同会社の従業員であって全国石油産業労働組合協議会東亜石油川崎製油所労働組合(組合員数二八名、以下便宜第一組合という。)に所属する組合員であり、なお被申請人会社には別に従業員の約七五パーセントにあたる約七〇〇名をもって組織する東亜石油労働組合(以下便宜第二組合という。)が存すること、被申請人会社の給与規定二七条一項には、被申請人会社は従業員に対し原則として毎年七月および一二月の二回に亘り賞与を支給する旨定められ、被申請人会社は従来右規定に基づき各労働組合と支給額、支給方法等に関する協約を締結したうえ、毎年七月頃全従業員に対し同一条件で夏季賞与を支給していたこと、なおすくなくとも昭和四五年以降右賞与の支給が行われなかったことはなく年二度の賞与の支給は特別の人情のないかぎり実施されほぼ慣習となっていること、しかるところ被申請人会社は昭和五一年三月二九日第二組合から賃金増額等の交渉を同年一〇月まで延期することの承諾を取付けると共に同年四月一六日同組合との間において、(1)被申請人会社は第二組合員各人の昭和五〇年度年間所得を保証する。(2)被申請人会社は昭和五一年度年間所得相当分の一部として同年三月三一日現在在職する第二組合員各人に対し、昭和五〇年度個人別夏季賞与支給額(ただし昭和五〇年度入社者は同年度冬季賞与支給額)を昭和五一年七月五日に全額現金で仮に支払うこと等を内容とする覚書を取交し、同年七月五日右覚書に基づいて第二組合員に対し一時仮払金として昭和五〇年度夏季賞与支給額(ただし昭和五〇年度入社者は同年度冬季賞与支給額)と同額(平均本給の三・一ヶ月分)を支給すると共に従業員の約二〇パーセントを占める非組合員に対しても同一基準に則って右仮払金を一率に支給していること、他方第一組合は昭和五一年三月九日頃から被申請人会社に対し賃金増額等の要求をなし、右賃金増額等に関する交渉を同年一〇月まで延期することを求める被申請人会社の申入を拒絶したため、被申請人会社は第一組合員に対して前記仮払金の支給をなさないこと、以上の事実が一応窺われるところ、右事実によれば前記仮払金は前記賃金増額交渉等の延期の合意と引換に昭和五〇年度の年間収入を保証する名目で支給されたものではあるけれども、右支給額、支給時期、支給方法、支給対象者等の点からみて、右金員は、後日賃金増額交渉等が労使間において妥結した際その支給額が変更される余地があるとはいえ、事実上昭和五一年度夏季賞与として支給されたものといわざるを得ない。

のみならず、≪証拠省略≫によれば、被申請人会社の賞与支給基準等は昭和四五年以降は同会社と多数組合である第二組合とが先ず交渉を行ってその内容を定め、これを非組合員はもとより事実上その内容を少数組合である第一組合の所属組合員にも及ぼすという慣行が確立していたことが一応認められる。しかして右事実に徴すると被申請人会社と第二組合との前記仮払金に関する協約の締結により前記仮払金の支給基準ないし方法はすでに確定して事実上変更の余地のないものになったといって過言ではない。

しかして前記仮払金の本質がその支給額、支給時期、支給方法、支給対象者の諸点からみて昭和五一年度夏季賞与であり、その支給基準等が右のごとく確定している事実に鑑みると、前記慣習に基く昭和五一年度夏季賞与の支給はここに具体化しているものといわざるを得ない。

してみると被申請人会社は前記慣習に基き申請人らに対し第二組合員らに支給したと同率の仮払金を支払う義務があるものといわなければならない。

しかして≪証拠省略≫によれば昭和五〇年度夏季賞与として申請人らに支給された金額が同人らの現在の給与額の三・一ヶ月分を下らないこと、右給与額が別紙債権目録本給欄記載のとおりであることが一応認められ、従って申請人らに支給されるべき金員がすくなくとも同目録請求債権欄記載の金額となることは計算上明白である。

なお≪証拠省略≫によれば申請人らが賃金を唯一の生活の資とする労働者であり、他に見るべき資産を有しないことおよび夏季賞与が生活費の一部をなしていることが一応認められるから、右仮払金の支給につき本案訴訟による解決をまっていては著しい損害を受けることが推認され、保全の必要性がある。

よって別紙債権目録請求債権欄記載の各金員および前記支給日の翌日である昭和五一年七月六日から完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める申請人らの本申請を認容し、申請費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 福井厚士)

〈以下省略〉

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